大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)674号 判決

原判決を検すると、原審は、挙示の各証拠を綜合し、「被告人は昭和二十一年頃より其の所有に係る金沢市石坂川岸二の小路六番地の一所在の木造瓦葺二階建一棟建坪約五十一坪外二階約四十二坪の家屋を料亭営業鵜城善隆に賃貸中其の明渡を求め、紛争の末昭和二十四年二月三日被告人より右鵜城に対し金沢簡易裁判所に家屋明渡調停の申立をしたので、調停委員会に於て調停を試みた結果、同年四月三十日「右鵜城は被告人に対し、前記家屋を昭和二十五年七年十五日迄に無条件にて明渡す」旨の調停が成立した。然るところ、被告人は、右明渡期限前たる昭和二十五年一月二十七日午後四時頃右鵜城の看守する前記家屋の裏門板塀を立木の枝を伝つて乗越え、該家屋に故なく侵入したものである。」旨の事実を認定したものであることが明かである。弁護人は、被告人は、不法占有者である鵜城に対し、判示家屋の明渡しを要求する権利を有するものであつて、被告人の判示所為は、該請求権の適法な行使であると同時に、該家屋附属の土蔵中に存在する被告人の所有物に対する盗難予防の必要上、やむを得ざるに出た行為でもあるからいずれの観点よりするも罪とならないものである旨主張するので、案ずるに、原判決挙示の証拠に、証人由尾安吉の当公廷に於ける供述を綜合すれば、所論の通り(一)金沢簡易裁判所に於て調停成立の際、申立人である被告人と相手方である鵜城善隆との間に、昭和二十五年七月十五日以前であつても、若し他に適当な立退先が見付かつた場合、相手方は直ちに原判示の家屋より退去してこれを申立人に明渡すべき旨の合意が成立したこと、(二)昭和二十四年十一月頃鵜城は、本件家屋の附近である金沢市石坂川岸一の小路十二番地所在の家屋一戸を買受け、同所に移転して、従来通り支障なく料亭営業を継続し、本件家屋を引続き占有使用しなければならぬ必要がなくなつたにも拘らず、主として被告人に対する自己の報復感情を満足せしめん意図のもとに、前記の合意が単に口頭の約束たるに止り、調停調書中に記載されていないのを奇貨とし、敍上約定の存在を否定し、調書記載の期限に至るまで、本件家屋を占有する権利ありと主張し、故意に家財の一部を該家屋中に残置した上、門戸に鎖鍮を施して其の占有を継続しこれを被告人に明渡すことを拒否したものであること、すなわち、右鵜城は被告人の所有する家屋を不法に占有するものであつて、被告人は同人に対し即時該家屋の明渡を請求する権利を有するものであることを肯認するに十分であつて、これと牴触する限度に於て、原判決には、一部、事実の誤認が存すると言わねばならないけれども、しかしながら、権利者が自己の権利を実現するためには、すべからく公力の救済を仰ぐべく、特別の事由がない限り自力による救済の法律上許されないことは勿論であるところ、特別の事情もないのに、合法の手段によらず、占有者の意に反して他人の看守する家屋に侵入した被告人の所為は、刑法第百三十条に該当することが明かであつて、原判決中前記の事実誤認は、或はこれを刑の量定に影響すべき事情の一として斟酌するは格別、前示の犯罪の成立それ自体と直接関係がなく、結局事実認定の問題としては、判決に影響するところがないのみならず、また原審証拠調の結果を精査するも、当時被告人が盗難予防のため本件家屋に立入らねばならぬ緊急の必要があつたことを認め得ないから論旨は採用するを得ない。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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